ここでは小児期の脳の発達についてまとめています。
はじめに
小児期における脳の発達には個人差がありますが、ある程度個々人の成長に幅がありつつも、皆に共通している法則・規則性があることが、これまでに分かっています。
小児期の脳は変化している状態が、あるべき状態だと言えます。
それは、新生児期には「飲む」「寝る」「起きる」「呼吸をする」といった生物として根源的な機能が備わっており、乳児期には、それまでできなかった「食べる」「歩く」「話す」などの日常生活で必要な機能を獲得していきます。
幼児期には、もっと複雑な「会話をする」「走る」「友達と遊ぶ」などの行動を獲得していきます。
これらの行動は、基本的に脳がつかさどっており、各行動に必要な関連臓器との共同作業をコーディネートしていきます。
これらの、これまで出来なかった行動・動作を獲得する過程には、「学習」と「記憶」が関係してきます。
「学習」と「記憶」も脳の機能ひとつです。
言語の習得の例を待たずして、「学習」と「記憶」における小児期の脳の働きは成人と異なっております。
ただ、正確に脳の「どこが」「どのような働きが」、どのように異なっているのでしょうか?
「学習」には、「時期」という要素や「環境」という要素も関わってきます。
また、広く小児期といっても、その違いは多様です。
「三つ子の魂百まで」という諺があるように、3歳までの変化は、それ以降に比べて様々な面で急激であると考えられます。
その一方で、これらの変化していくべき小児期の脳が、変化しない、もしくは正しく変化しない、という病態があります。
壮大なテーマのため、どれくらいの記事になるのかはわかりませんが、可能な限り新しい知見も含めてアップデートしたいと思います。
脳の大きさ
脳の大きさの変化を追った研究で、2歳までに急速に成長し、成人の80%程度になるという報告があります[Nat Rev Neurosci 19;123-127,2018]。
脳の領域
運動や感覚といった機能を司る領域の方が、言語・社会性などを司る領域よりも早く成熟すると考えられています。
シナプス形成と刈り込み
神経細胞の興奮を伝えるために、神経細胞の結合が必要です。
この部位をシナプスと言います。
シナプスは生後変化を続け、必要な部分は残存し、強化され、不要な部分は除去されます。
この過程をシナプスの「刈り込み」と言います。
学習することで、ある一定のシナプスが強化され、一方で刺激がないシナプスは刈り込みをされていきます。
「刈り込み」にも領域ごとに異なる時期に異なる領域が活発になることが分かっています。
例えば、一次視覚野ではシナプス密度は生後から生後8か月まで増加し、その後は「刈り込み」が活発になり減少していきます。
一方で前頭葉における「刈り込み」は緩徐に進んでいきます。
髄鞘化
神経伝達を担う軸索には、その伝導効率を向上するために髄鞘に囲まれています。
髄鞘化は、まず胎生29週ころから脳幹がはじまり、その後は腹側から背側、後方から前方へと進んでいきます。
髄鞘化が活発な部位は、脳の成熟が進んでいる領域であるといえます。
内分泌
先天性の甲状腺機能低下症であるクレチン症では、甲状腺機能低下状態が続くことにより脳の成熟に異常を認めます。
したがって、日本では新生児マススクリーニングのなかにクレチン症が含まれ、早期発見し、治療が介入できるような体制となっています。
また、白質形成異常症のひとつであるMCT8異常症では甲状腺機能低下症を合併することがあります。
栄養
鉄欠乏が髄鞘化の障害、海馬の構造・機能異常をきたすことが報告されています[Biochem Soc Trans 2008;36:1267-71]