てんかんと妊娠(葉酸)

ここでは、てんかんと妊娠・出産について考えていきたいと思います。

てんかんに罹患している方は妊娠・出産が可能か?

おそらく、最も大切な問いは、てんかんに罹患している方は妊娠・出産が安全に行えるかどうか?という点であると思います。

結論から申し上げると、病状と内服している抗てんかん薬にもよりますが、主治医と相談のもと計画的に妊娠・出産を行うことが大切で、多くの方は可能だと思います

妊娠前、妊娠中(胎児)、出産後(授乳・発育)にステージを分けて考えていきたいと思います。

妊娠前の注意点

妊娠が可能な年齢の女性のてんかんを持つ方で、特に抗てんかん薬を内服している場合は、妊娠・出産の可能性をふまえた診療が大切だと思います。

その理由は、妊娠に気づいた時にはすでに胎児の体の大切な部分は出来上がりつつあるからです(器官形成期)。

しかも、抗てんかん薬の調整はご存知の通り、簡単に短期間で行うことが難しいことが多いです。(時間がかかると思った方が良いかもしれません)。

つまり、すぐに結婚・妊娠のご予定がない場合にも、ある程度時間をかけて備えていく必要があります。

また、そのような理由で妊娠適齢期の女性は普段から葉酸を内服することが推奨されています。

葉酸は、胎児の神経管閉鎖不全・二分脊椎の発症頻度を下げる効果があります

補充量は、一般女性で0.4~0.6mg/dayが推奨されています。

海外では神経管閉鎖不全症の児の出産既往のある女性は4~5mg/dayが推奨されています。

妊娠中の注意点・抗てんかん薬の胎児への影響

妊娠中の発作は可能な限り予防していきたいので、妊娠前からの治療戦略が大切です。

通常、妊娠前後で発作頻度は変わらないといわれています。

抗てんかん薬は通常通り継続していくことが多いと思います。

抗てんかん薬により胎児への催奇形性が増加することが、以前から言われています。

徐々にどのような薬剤をどのくらいの量内服していれば、発生率が高まるかが分かってきていることもあります。

有名なのがバルプロ酸ナトリウムで、特に量が多い場合には注意が必要といわれています。

ひとつの例として、妊娠中のバルプロ酸ナトリウム内服とmajor congenital malformations (MCMs)・先天性大奇形の発生を調査した研究では、妊娠中のバルプロ酸ナトリウム内服によるMCMの相対危険度が2.1 (95%CI 1.24-3.48)であったと報告されました[Seshachala B, et al. Epilepsia 2021;62:1141-47]。

その調査では、バルプロ酸ナトリウムの開始前に、その他の薬剤(LTG, LEVなど)をトライした症例が10%未満だったということで、妊娠可能な女性における抗てんかん薬の選択に関しての警鐘がなされています。

出産後(授乳)の注意点

抗てんかん薬を内服している母からの授乳に関しては、安全性が確立されたデータがそろっているわけではありませんが、薬剤の乳汁への移行は極めて少量のため、原則的に可能と考えられています。

ただ、ベンゾジアゼピン系の薬剤やフェノバルビタールは代謝が遅いため、体のなかにたまってしまう可能性があり、赤ちゃんが寝てしまいがちになるなどの鎮静作用が出る可能性があるといわれています。

一部の抗てんかん薬には、妊娠中の内服により児の認知機能へ影響を与える可能性がある薬剤があります。

デリケートな話題ですが、妊婦と胎児の安全性を確保するため、可能な限り妊娠前から主治医と長期的な治療戦略をご相談頂ければと思います。