結節性硬化症

今回は、てんかんに深く関連した疾患のひとつとして結節性硬化症について説明したいと思います。

結節性硬化症とは

結節性硬化症(tuberous sclerosis complex)は、体の様々な場所に腫瘍ができる病気です。

体の場所とは、脳、目、腎臓、皮膚、肺、心臓などが代表的です。

体に出来る場所により様々な症状を引き起こします。

脳の病変もいくつか種類があるのですが、皮質結節によりてんかんを発症することがありますし、上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma; SEGA)は徐々に大きくなって水頭症という状態になってしまうことがあります。

上衣下巨細胞性星細胞腫を左側脳室に認め、脳室拡大を伴う
引用:Childs Nerv Syst 2020; 36: 2527-36

心臓であれば、特に小児期(新生児期)から認められる横紋筋腫が代表的です。

この腫瘍は、むしろ小児期から年齢を経るにしたがい縮小していくことが多いのが特徴です。

皮膚には、白斑といって皮膚の色素がぬけたような症状が背部などに多発することがあります。写真(b)

幼児期・学童期くらいからシャグリンパッチというもりあがったような症状がでてきます。写真(d)

思春期くらいから顔面の血管線維腫が出現します。写真(a)

(a) 顔面血管線維腫, (b) 背部の白斑, (c) 爪下線維腫, (d) シャグリンパッチ
引用:Am J Med Genet C Semin Med Genet 2018; 178: 321-25

腎臓に出来る腫瘍は腎血管筋脂肪種が有名です。

これは残念ながら、年齢を経るにしたがい増大してくることがあり、増大してくると突然出血するリスクがありますので慎重なフォローアップが大切です。

他にも全身の症状が出現することがありますが、当記事では特にてんかんに関連した部分について説明します。

原因

結節性硬化症の原因は、細胞の増殖させる役割をもつmTOR(エムトール)というタンパク質をコントロール遺伝子に問題があり、発症します。

mTORが過剰に働きすぎることにより細胞増殖に歯止めがかからなくなり腫瘍ができやすい体質になってしまうのです。

(a) mTORC1 pathway (b) mTORC2 pathway
引用:Annu Rev Biochem 2011; 80: 1001-32.

診断

症状と検査の組み合わせで特徴的な所見がそろっていれば診断が確定します。

色々な症状がそろう方は臨床的に診断可能ですが、症状がそろわない方もいますので、確定のために遺伝子検査をすることがあります。

治療

根本的に原因を取り除き根治することはできませんが、様々な症状に対して色々な診療科が協力して対応することが大切です。

また、定期的に検査を実施することにより、腫瘍増大のフォローアップをしていくことが大切です。

最近は新しい薬剤も出てきています。

例えば、結節性硬化症に伴う皮膚病変(顔面血管線維腫)に対するシロリムス(ラパリムスゲル®)は2018年に承認されました。

また、エベロリムス(アフィニトール®)はてんかんに対しての適応拡大承認を2019年に取得しました。

結節性硬化症とてんかん

結節性硬化症の重要な合併症のひとつとしててんかんがあります。

てんかんを発症されたことで、初めて結節性硬化症と診断されることがあります。

結節性硬化症に合併するてんかんにはいくつかタイプがありますが、まず乳児期に大切なてんかんのタイプに、点頭てんかん(ウエスト症候群)があります。

点頭てんかん(ウエスト症候群)に関してはこちらをご覧下さい。

結節性硬化症に伴う点頭てんかんで大切な薬に、ビガバトリン(サブリル®)という薬があります。

大切な薬のため別の記事で詳しく紹介しています。

「ビガバトリン(サブリル®)」

この薬は、結節性硬化症に限らず点頭てんかんの治療で重要な位置を占める薬ですが、なかでも結節性硬化症に伴う点頭てんかんに対して有効性が高いことが知られています

しかし、主に目の網膜に対する副作用があるために慎重に投与する必要があります。

この副作用は原則的にいったん発現してしまうと治療法がないことが問題です。

しかし、蓄積性に周辺視野から障害が認められるため少量・短期間で管理すればリスクはある程度抑えられる、というデータ・意見もあります。

そのさじ加減が難しいため、現在日本では登録された専門施設でしか管理ができません。これは患者様からみれば医療機関へのアクセスなどで困難が生じる可能性があります。

また、点頭てんかん以外にも様々なタイプのてんかんが併存し得るため、これらの治療はご本人の生活のことを考えるとかなり重要だと考えられます。

最後に

結節性硬化症とてんかんについてまとめました。

当記事の内容は慎重を期していますが、専門家による私見も多く含まれています。また、特定の薬剤の使用を推奨するものでもありません。ご注意下さい。